江戸っ子床屋

とうとう髪の毛を切ってしまいました!
東京・浅草に用事があって出かけたついでに、そこにあった「理容室」に入ってみたのです。が、そこはいかにも懐かしい「理容室」でした。
店頭には赤と青の”ぐるぐる”が店頭に立ち、ドアを開けて中に入れば茶色い布皮の椅子、そしてその前には琺瑯(ほうろう)製と思われる白い洗顔台。上を見渡せば、何かの表彰状に見たことのない演歌歌手のポスターが張ってあります。
出迎えたのは、50−60歳台と思われる男性です。真っ白い上っ張りに四角い頭が乗っています。
「っらしゃい!どうぞこちらへ」寿司屋ばりの元気な声に則されて、椅子に座る私。
「さて、どうしやしょ」
「後ろが長くなっているので、短く切ってください。横は耳にかかるくらいでお願いします」最初はヨン様カットをお願いしようかと思っていたのですが、このオジサンに頼んだ日にゃ、渥美二郎(釜山港へ帰れ)カットにされそうなので無難にいくことにしました。
「あい、あ、前は?」
「眉毛にかかるくらいで」
ちなみにその時の私の髪型、なんといいましょうか「みうらじゅん」みたいな、ぼさぼさ長髪でした。
「お客さん、なんだか小泉首相みたいな頭だね。これ流行ってるの?」
「いや、別に放っておいたらこんな頭に・・・」
「でも、しばりはいいねぇ」全然人の話聞いてません。しかも「しばり」って何?
「え?」
「しばりだよ、しばり!」オジサンはお店の奥を指さします。そこをみると、やたらデカいラジオから、女性の歌声が・・・もしかして・・・
「これだよ、やっぱり”あけみの唄”はいいねえ、美空しばり!」
ああ、やっぱりこの人江戸っ子なんだ。コーヒーはコーシー、日比谷はしびや、ウチの父親と同じ見事な江戸弁です。
それにしても、オジサン、しゃべりながらも手はしっかり動いていて、年季を感じます。うーん、これが職人かぁ・・・と手付きに見とれているうちに、私はウトウトと眠りについてしまいました。
目が覚めたのはおじさんが「ハイ、終わり!頭洗おうね!!」といった時です。
目の前の鏡に写っているのは、前はそこそこ刈ってあるのですが、後ろ髪がやたらと長いオオカミカット・・・。色黒の落合息子、ってところです。・・・で、オジサンは
「いやー、お兄さん男前だから、こっちの方が似合うとおもって!ね、いいでしょ!!」
とか何とか言ってます。気の弱い私は「NO」といえず、さらにこのあとの悲劇を招くことになりました。
で、このあと頭を洗ってもらい、顔剃り(これは気持ち良かった)をやったあとはドライヤーで最後の仕上げです。「神様、どうかこれ以上悪化しませんように」という私の祈りもしらず、オジサンは上機嫌でブラシをつかっていきます。
「どうしましょう、ポマードつける?」
「え、ポ、ポマード、いい、いいです。結構です」
「じゃあ、チックは?」
「いや、それもいいんで自然な感じで・・・」
「はいよ、了解」
機嫌良く仕上げていくオジサンの手つきは見事です。前髪をブラシで捉えたあと、後頭部へ向かってばしっと固定、そのまま熱風を吹き付けて・・・ってそれじゃ20年前のトシちゃんになっちゃうよ!!!でも、ここでも気の弱い私は何にも言えません。
案の定、出来上がった私の頭は、前が20年前ジャニーズ系ボリュームタップリ、後頭部はやたらと長めのオオカミカット、あれれ、これって
「お兄さん、いいでしょ、この頭。”必殺”に出ていた人と同じ頭にしてみたよ」
やっぱり、京本政樹だぁ。もちろん、ここでも”NO”とは言えません。
「はい、じゃあ2500万円!」
最後は親父ギャグで送り出された私、その足で別の床屋さんに行ったことは言うまでもありません。