ワリバシエビ

さて、今回は私が個人的に一番好きなエビをご紹介しましょう。

この何とも言えないシェイプのエビ、和名をコガラシエビと申します。ちなみに学名はLeander plumosus 体長は2〜3cmクラスのものが多いようですね。
微生物から連綿と続く進化の過程で、どういうフィルターを通したらこんなアナーキーな姿になるのか、一度問いつめてみたい気がします。(誰に?)

私がモルディブに来たころは、このコガラシエビという和名が一般化しておらず、インドネシア在住の某日本人ガイドさんが命名したという「ワリバシエビ」という通称の方が有名でした。ワリバシエビ・・・全然しっくりきますね、コガラシエビなんて名前より。ネーミングセンス秀逸すぎます。
それはともかく、かなり前からモルディブではこのエビの個体数が多い、という話をチラチラと聞いてはおりました。ですが、実際にはナイトダイブでたま〜に見かけるくらいの生息数。見かける頻度でいうと、池袋ビックカメラで生の林家ぺーを見つけるのと同じレベル。オトヒメエビ並みにわさわさいる風景を勝手にイメージしていた私にとっては、「ちょっとぉ、話がちがうじゃんかよ〜」と愚痴のひとつも言いたくなるような状況だったのです。ハイ、自分の探す目の無さを完全に棚に上げてますね。

そんな状況が一変したのが、1997年に全世界規模で発生したエルニーニョ現象のあとのことでした。

皆様ご存じの通り、エルニーニョ現象モルディブのサンゴに多大なダメージを与えました。特にハードコーラルのダメージは大きく、その後遺症は今に至るまで続いております。日に日に死んでゆくサンゴ達・・・現地で見たその光景は、壮絶とか、悲惨とか、そんな言葉では言い表せないくらいのものでした。サンゴの群生が数ヶ月後には、ただのガレキの山になっていったのです。
ところが、そんな死んでいくサンゴたちを横目に、このコガラシエビ達の姿が頻繁に目につくようになりました。もともと、このエビはガレキや石の隙間などが生息域。ですから、死んだサンゴは絶好の住み家だったのです。いうなれば、目の前に空き家がバンバン出現したようなもんですよ。

おかげで夜間のみならず、昼間の時間帯でもガレ場をちょっと見ればこのワリバシ君がホイホイ見つかる、という状況が数年続いておりました。ところが、最近は再びレア度を増して、昼間に見つけるのは至難の業となってきています。サンゴの復活などが関係しているんでしょうか???

コイツを見つけるコツは、夜間にガレ場の石を根気よくひっくり返してみること。ですが、なかなかにシャイなやつなので写真を撮ろうとすると結構ムズかったりするのです。一度奥に引っ込んでしまった個体はすっぱり諦めて、別の個体を探して・・・を繰り返していけば、運良くドン臭い個体に出会えるかもしれません。

掲載した下の写真は、ターゲットライトに寄ってきた小型のエビ(アミ?)をパックリいったところです。この時は、私に(正確にはカメラハウジングに)メンチを切りながら、数分かけてこのエビを食しておりました。私はファインダーを覗きながら「ああ、このエビみたいに数分かけて食べられるって死に方だけはイヤだぁ〜」と意味もなくブルーになってしまったのを覚えております。

カメラ:ニコンF4
レンズ:105ミリマクロ+クローズアップレンズ
フィルム:プロビア
撮影地:バンドスハウスリーフ